「正絹の着物って、どうしてこんなに高いんだろう?」
着物を見ていて、そう思ったことはありませんか?
もちろん着物の価格には、染めや織り、産地、職人の技術など、さまざまな要素が関係しています。
しかし、その前に知っておきたいのが、そもそも絹という素材自体に、とても多くの手間がかかっているということです。
今回は、絹がなぜ高いのか。
着物一着に必要な繭の数や、繭から糸ができるまで、さらに絹糸の産地や品質の違いまで、できるだけわかりやすくご紹介します。
着物一着に必要な繭は約3,000個
絹糸の原料は、蚕がつくる「繭」です。
一着分の着物をつくるためには、目安として約3,000個もの繭が必要になります。
「一着にそんなに必要なの?」
と驚かれる方も多いかもしれません。
蚕は桑の葉を食べて成長し、やがて自分の身体のまわりに糸を吐きながら繭をつくります。
その繭をつくっている糸が、絹のもとです。
一つの繭からは1,000mを超える長い糸を取ることができます。
ただし、その一本一本は非常に細いため、そのまま一本の糸として着物を織るわけではありません。
複数の繭から細い糸を引き出し、それらを合わせながら一本の生糸にしていきます。
一反の着物になるまでには、想像以上にたくさんの繭が必要なのです。
繭から絹糸はどうやって作られる?
繭ができれば、そのまま着物を織れるわけではありません。
繭から生糸をつくる「製糸」という工程が必要です。
大まかには、
繭を選ぶ
↓
繭を乾燥させる
↓
繭を煮て糸をほぐれやすくする
↓
糸口を見つける
↓
複数の繭から糸を引き出して一本にまとめる
↓
生糸になる
という流れです。
繭を煮て糸をほぐれやすくする工程を「煮繭(しゃけん)」、繭から糸を引き出して生糸にする工程を「繰糸(そうし)」といいます。
小さな繭から細い糸を引き出し、それを何本も合わせる。
そうしてようやく、着物づくりに使われる生糸になっていきます。
絹は「糸になる前」から手間がかかっている
絹が高い理由というと、着物を染めたり織ったりする職人の技術を想像する方も多いと思います。
もちろん、それも着物の価格を左右する大きな理由です。
しかし絹は、染めたり織ったりするよりも前から、多くの手間がかかっています。
まず、蚕を育てなければなりません。
そのためには桑を育て、蚕に桑の葉を与え、成長を管理し、繭をつくらせます。
そして、できた繭を集めて生糸にする。
さらに生糸になってからも、用途に合わせて糸を整え、染めたり織ったりしながら、一反の反物へと仕上げていきます。
私たちが呉服屋で目にしている反物は、こうした長い工程を経て完成したものなのです。
中国産やブラジル産の絹糸も使われている
着物に使われる絹糸というと、
「国産の糸を使っているのでは?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし現在では、国産だけでなく、中国産やブラジル産などの生糸が使われることもあります。
ここで知っていただきたいのが、
「外国産の絹糸=安い糸」とは限らない
ということです。
海外でつくられた生糸であっても、蚕を育て、繭をつくり、そこから糸を引き出して生糸にするという工程が必要なことに変わりはありません。
もちろん、産地や生産方法、品質などによって価格には違いがあります。
しかし、「中国産だから安物」「ブラジル産だから安物」と単純に判断できるものではないのです。
絹糸にも、お肉のように「ランク」がある
もう一つ知っておきたいのが、絹糸はすべて同じ品質ではないということです。
少し分かりやすく例えるなら、お肉に品質や等級の違いがあるのと似ています。
絹糸にも品質の違いがあります。
例えば、糸の太さがどれくらい均一に整っているか、節などがどれくらいあるかなど、さまざまな項目によって生糸の品質は評価されます。
つまり、
「正絹100%なら、どの着物も同じ絹を使っている」
というわけではないのです。
同じ絹100%でも、使われている糸の品質には違いがあるのです。
そのため、着物を見るときも「国産か外国産か」だけでは、その絹の良し悪しや着物そのものの価値までは判断できません。
どのような品質の糸を使い、それをどのように染め、どのように織って一反の反物にしているのか。
そうしたさまざまな要素が、着物の品質や価格につながっています。
化学繊維と比べて絹が高い理由
現在では、ポリエステルなどの化学繊維でも多くの着物がつくられています。
化学繊維には、お手入れがしやすい、比較的価格を抑えやすいなど、それぞれの良さがあります。
一方、絹の場合は、原料となる繊維をつくるために、まず蚕を育てるところから始まります。
一着の着物に必要になる繭は約3,000個。
そこから生糸をつくり、さらに染めや織りなどの工程を経て、一反の反物へと仕上げていきます。
つまり絹は、原料の段階から時間と手間が必要な天然繊維なのです。
これが、化学繊維と比べて絹が高くなりやすい大きな理由の一つです。
それでも着物に絹が使われる理由
これほど手間がかかるにもかかわらず、絹は長く着物を代表する素材として使われてきました。
その理由は、やはり絹ならではの風合いにあります。
上品な光沢。
しなやかな肌触り。
そして、美しい発色。
実際に着たときには、生地が身体に沿うような柔らかさも感じられます。
さらに絹は、染めても、織っても、それぞれ違った表情を見せてくれます。
友禅のように染めの美しさを楽しむ着物もあれば、紬や御召のように織りや糸の表情を楽しむ着物もあります。
さまざまな技法を受け止めながら、それぞれ違った魅力を見せてくれる。
それも、絹が着物に使われ続けてきた理由の一つです。
「絹だから高い」には、ちゃんと理由がある
「正絹だから高い」
そう聞くだけでは、なかなかその理由までは分かりません。
しかし、その一反ができるまでを少しさかのぼってみると、見え方が変わってきます。
一着の着物に使われる、約3,000個もの繭。
蚕を育て、繭をつくり、そこから細い糸を引き出して生糸にする。
さらに、その生糸にも品質の違いがあり、そこから染めや織りなど、さまざまな工程を経て一反の着物になります。
そして、中国産やブラジル産などの生糸が使われていたとしても、それだけで「安い絹」と判断できるものではありません。
絹が高いのは、単に「高級素材だから」ではありません。
原料となる繭をつくるところから始まり、糸になり、反物になるまでに、多くの時間と手間が積み重なっている素材だからです。
正絹の着物を見る機会があれば、ぜひ一度、その生地ができるまでにも目を向けてみてください。
「より一層、愛着がわくはずです。」
